古本屋のこと [読書]

小学校の校則で「子供だけで学区外に出てはいけない」というものがあった。そして学区内に書店はなかった。そんな田舎の少年時代。

はじめて本を注文したのは最寄りの書店でのこと。氷室冴子の「なぎさボーイ」と「多恵子ガール」。どうしても店頭で見つからず店員に尋ねたら取り寄せということになった。刊行から10年近く経っていたがなんとか在庫が残っていたらしい。
注文から一カ月程してようやく入荷の連絡が入った。新刊にも関わらず小口の黄ばみが目立った。だが、とても満足だった。

地元の古本屋には普通の本屋ではお目にかかれないような本たちが所狭しと並んでおり、父に初めて連れて行ってもらった時はドキドキした。やがて自分の足で通うようになるとそこは秘密の遊び場だった。
主に少し昔の漫画など買っていたが、特に役立ったのは古いアニメ雑誌だ。
「アニメージュ」の確か1月号だったと思うが、その年放映したアニメとスタッフ・キャストの一覧が掲載されていたのだ。90年前後のバックナンバーを入手し、当時ファンだった日高のり子の仕事一覧を作成した(後年ウェブサイトにて公開したこともあった)。アニメージュは日高さんの結婚当時のウェディングドレス姿を発見できたという意味でも大変価値のある雑誌だった。ちなみにこのドレスは佐久間レイさん、日高のり子さん、林原めぐみさんという「らんま1/2」のヒロイン役の声優たちが結婚式で着用したという物凄いものであった。

ブックオフが地元にやって来たのは消費税が5%になった頃だったろうか。入れ換わるように前述の古本屋は閉店した。ブックオフは専ら立ち読みに利用していた記憶である。「らんま1/2」のような連載期間の長い単行本を全巻揃えようと思うとなかなか根気が必要だった。
後に利用したオンラインショップはマイナー出版社から出た漫画を買うのに重宝した。これらは数年ですぐ絶版になってしまうからだ。

サイト「日本の古本屋」を初めて利用したのは「中国人の論理学」(加地伸行、中公新書1977)を購入した時だ。中公新書で名著と言えるようなものでも絶版になってしまうと中々手に入らないものだ。地元の古本屋がブックオフしかない状態ではそれも無理からぬことである。インターネット時代の恩恵を感じた瞬間であった。
もう一つ思い出深い古本といえば「虚霊」(立木鷹志、新宿書房1982)である。偶々図書館で読んだ「夢の形をした存在のための黙示録」(立木鷹志、沖積舎2000)が面白く、その後書きで存在を知った。曰くかの埴谷雄高がこれを読んで絶賛したというのである。
出版社は既に廃業しているものの比較的刊行年が新しく東京ということもあって思ったより容易に入手できた。
今は「死霊」と並べて大切に保管している。

この「虚霊」も学生運動家が労働の中での運動に移行していく過程を描いたものだが、学生運動に関わる同時代的な書物もかなり刺激的な物が多い。
きっかけは大学時代に自分の大学の歴史を調べていた時に見つけた60年代の学内の発行物だったと思う。
70年安保から40年が経って、或いは団塊の世代が退職して、このことについての総括は出版物としては増加傾向にあるが、当時の本を見つけるのはやはり難しい。
大手出版社から批判的に論じられた物は別にして多くの社会系出版社は小規模であったり、場合によっては地下出版であったりするのだ。
かの「腹腹時計」(東アジア反日武装戦線「狼」)も後に抄録が刊行されることになるが、オリジナルのvol1となると見当もつかない。

差し当たって蒐集してみたいのは「古代支那」とか「支那思想」に関する戦前の書物。というか「支那」という語自体が戦後は使われなくなったものだが。これを「中国」に読み換えて復刊していたりするもの、著作集に収録されていて参照が容易なものは省く。
テキスト本体に興味があるのであって、初版だの○○社版だのには興味が無い。(ただし推理小説関係で幻影城版の「匣の中」とか初版の「虚無への供物」とかは以前から欲しいとは思っている)

ところで1999年に公開された映画「腹腹時計」、当時下宿していた街にもやって来たのだが、「腹腹時計がやって来る」のポスターが恐ろしくて見に行かなかった。少し後悔しているのである。
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