『ボクは再生数、ボクは死』登場人物と世界 [読書]

『ボクは再生数、ボクは死』(石川博品,KADOKAWA,2020)
(ネタバレあり)

時は2033年、主人公の狩野忍(かのうしのぶ)、スフィアタグ=シノ。28歳の実家暮らし。住所は栃木県あさひ市大字古里206。中学校は本田中。
あさひ市は宇都宮市から電車で25分、人口15万人。名産はハトムギ茶(モデルは小山市?)。
勤務先は株式会社スマイルアクアサービスあさひ支社総務部施設計画課。栃木県から水道事業を受託している。
BoW2を6,000時間プレイして大学を2年留年。BoW3はティア10レベル100(レベル100を10周)で世界300位以内の腕前。

斎木(さいき)みやび、スフィアタグ=イツキ。忍の会社での直属の先輩。春に本社から異動してきた。学年は忍の2歳上。ただし忍が大学で2年留年しているので、社歴は4年上。住所はあさひ市小松町1-16-51。中学校はあさひ中、高校はあさひ高。
小学生の時に交通事故に遭い脊椎損傷し車椅子ユーザー。乗っているコンパクトカーには屋根に折りたたみ式の機械アームが付いており車いすを運べる。

サブライム・スフィアは世界最大のVR空間。2029年夏稼働。基本無料。運営母体のサブライムは世界最大のEC企業。サブチャット(SNS)、サブストリーム(動画配信)も運営。
ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とハプティックグローブ、そして紙おむつを装着してインする。

シノのいるクラスタ(エリア)はオール・アゲインスト・ザ・ロウ(2AL)、「なんでもあり」というルールに則って運営されている。殺されるとサブライムから退会したという扱いになり、アカウントとアバターが消去され復活できなくなる。
各クラスタにはプライベート・セキュリティ・ガード(PSG)という自警団がいる。

シノのアバターはデザイン・モデリングともカリスマ的モデラーぱおぱおが制作した。世界で唯一の特注アバター。ぱおぱおがフリーになった直後の依頼だったため、特別に受けてくれた。制作費は新車の軽が買えるくらい。半年に一度の新衣装と年一の本体アップデートつき(イツキ曰く「実質無料」)。
イツキちゃんねるでの2AL殺人配信を機にバズる。

イツキのアバターはぱおぱおデザインで別の人がモデリング下量産型の限定モデル。
スフィア稼働時から動画配信しているがフォロワー数は8だった。
2AL配信にて銃で撃たれVRショックを起こす。自宅でのインが禁止になったため、シノと共に遊遊CLUBあさひ市中央店のVRパーティルームを使用する。

キャッシュマネー。フォロワー13万人のロリアバターストリーマー。動画はハウツー系。
シノとイツキにコラボを持ちかけられるがフォロー数が少なかったため体よく断る。その際、2AL配信についてアドバイスをする。
その後、シノ・イツキの2AL配信がバズったためコラボを了承するが、シノの逆恨みにより配信内で殺されかける。バズりそうなターゲットをシノに提供することで命拾いし、パートナーとなる。
中の人は都内在住の高校2年生。

ツユソラ。風俗店「ギャルリー・ヴィヴィエンヌ」に勤務していたが実家に仕送りするため4時間100万円の店「エスコートサービス・カリプソ」に移籍する。シノは彼女に会うためにイツキと組んで金稼ぎに精を出すことに。
中の人、浅海そらはマリカワの恋人だったが去年の大阪府蘆辺市の豪雨災害で一家とともに死亡。
現在のツユソラはマリカワと同居中のデータを基に作られたbotだった。
botだと判明したためBANされたが、その直後にマリカワはモデルをネットに流したためフリー素材化した。顔、体、モーションそれぞれをモデラーが作成し、制作費用は500万円かかっている。
マリカワは増殖したツユソラの中にシノと出会う前の本物の記憶を持ったツユソラbotを紛れ込ませることを計画している。

マリカワ。Bow4のパブリッシャーとパートナー契約を結んだ日本のプロゲーマー。現在28歳。2026年に21歳でOdysseyの世界大会で優勝。ゲーマーとしては3年間のブランクがある。Bow4でシノらと対戦したあと、住んでいるノーマルクラスタのマンションをシノが買い取り2ALに変更したため自室で殺害される。中の人は和歌山在住。HMDを付けたまま電車に乗る、リアルで忍以上に「やれてない」人間。



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メタラブコメ前史~『現実でラブコメできないとだれが決めた?』感想・その2 [読書]

もちろん『現実でラブコメできないとだれが決めた?』以前にもメタ的なラブコメラノベはあった。

「東京大学新月お茶の会編集日誌」は2012年11月12日の記事で「メタラブコメ」について言及している。
『月猫通り』2138号 メタラブコメ特集+序論 http://newmoonteaparty.blog110.fc2.com/blog-entry-119.html
ここで指摘されていることは、かつてメタミステリと推理小説の関係の繰り返しなのかもしれない。
ラノベそのものが「コミックやゲームの活字化」から始まったように、オタクジャンルへの自己言及装置だとするならば、すべてのラノベがメタ的な要素を持っていてもおかしくはない。

ただし、より限定的に定義するならば入れ子構造を有した作品を指したい。
また、ラブコメの舞台が学校を中心とする現代であることも重要だろう。異世界ラブコメやオンゲー内ラブコメは「ラブコメ」部分以外にリソースがさかれているからだ。

そして同年から刊行が開始された『冴えない彼女の育てかた』(丸戸史明,富士見書房-KADOKAWA,2012-2019)は、アニメ化もされた有名作品である。主人公は同級生をメインヒロインにした同人ゲームを制作していく。

作者は本書の出版までに美少女ゲームのシナリオライターとして10年のキャリアがあり、本書もゲームを題材としている。

そもそも美少女ゲームは尖った表現形式を追求する作品も多く、メタ的な内容を含む作品も受け入れられていた。
所謂ジュブナイルポルノと呼ばれるラノベの近接ジャンルにはなるが、『左巻キ式ラストリゾート』(海猫沢めろん,パンプキンノベルズ,2004)は同じく美少女ゲームのスピンオフという位置づけであり、犯人当ても含めてそのメタ的なその作品構造が話題となり、東浩紀や西尾維新の絶賛するところなった。
その後、ギャルゲ/美少女ゲー題材のメタフィクションは、コミック『神のみぞ知るセカイ』(若木民喜,小学館,2008-2014)により広く人口に膾炙し、本流であるゲームでは『君と彼女と彼女の恋。』(ニトロプラス,2013)がゲームの特性を生かしたギミックにより現実に侵食する虚構というメタフィクションの本質を見事に表現した。

(作品の感想にたどり着けてないが、続くのか?)



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メタラブコメの出現とメタフィクションの系譜~『現実でラブコメできないとだれが決めた?』感想・序 [読書]

メタフィクションは「現実自体の虚構性を暴き立てる絶好の手段」であり、「文学的自己言及装置」を擁する(『メタフィクションの思想』巽孝之,筑摩書房,2001)。

同書の目次には、トマス・ピンチョン、筒井康隆、ルーディ・ラッカー、沼正三、スティーブ・エリクソンらの名前が並ぶ。ボルヘス、デリーロら南米文学のマジックリアリスムは世界的文学賞を席巻し、P.K.ディック、スピンラッドにも改変歴史を扱ったメタSFがある。

日本の推理小説界においてはメタミステリまたはアンチミステリというサブジャンルがある。三大奇書、または黒い水脈と呼ばれる作品群(『ドグラ・マグラ』(夢野久作,松柏館,1935)、『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎,新潮社,1935)、『虚無への供物』(塔晶夫,講談社,1964/中井英夫,三一書房,1969))はメタ的な自己言及的装置を有している。

推理小説のこの系譜からは、『匣の中の失楽』(竹本健治,幻影城,1978)、『ウロボロスの偽書』(竹本健治,講談社,1991)、『夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩,講談社,1993)、『蝶たちの迷宮』(篠田秀幸,講談社,1994)、『コミケ殺人事件』(小森健太朗,出版芸術社,1994)、『天啓の宴』(笠井潔,双葉社,1996)、『匣の中』(乾くるみ,講談社,1998)等の作品が生み出された(※例示は拙者の独断)。

さて、ラノベ界は空前のラブコメブームだという。
特に小学館が発行するレーベル「ガガガ文庫」は、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(渡航,小学館,2011-)の大ヒット以降、『弱キャラ友崎くん』(屋久ユウキ,小学館,2016-)、『千歳くんはラムネ瓶のなか』(裕夢,小学館,2019-)と名作ラブコメを連発し、ラノベラブコメ界の総本山と言える存在だ。

そして、このガガガ文庫からラブコメの極北、メタラブコメとして誕生したのがこのほど完結した『現実でラブコメできないとだれが決めた? 』(初鹿野創,小学館,2020-2022)なのである!

(続きます)



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