倉橋由美子『シュンポシオン』あらすじと感想 [読書]

桂子さんシリーズを第2作『城の中の城』→第4作『交歓』→第3作『シュンポシオン』と読んで、残りは第1作『夢の浮橋』となった。
時系列では『夢の浮橋』(舞台は1970年)→『城の中の城』(舞台は1980年)→『交歓』(舞台は1990年)→『シュンポシオン』(舞台は2010年)

『シュンポシオン』は、桂子さんシリーズ第3作、時系列は4番目。宮沢耕一の後妻との子である明と、桂子の長女智子の子である和泉聡子を中心に語られる。設定上、二人は伯父と姪の関係でもある。
実は二人を結び付けたのは智子の祖母・桂子と叔母・優子の策略であることが後に語られる。
登場時点で宮沢明はいわゆる男やもめ。妻のなほ子は自動車事故で亡くなっている。ところで、『夢の浮橋』に「宮沢明」と「菜穂子」という名前がふいに現れ、『シュンポシオン』を先に読んでいたため驚いた(堀辰雄の『菜穂子』のことらしい)。

桂子4部作とされるが、桂子自身は前面には出てこず、時代的にも舞、慧らの外伝的作品に近い。「今の世紀に入り、それから十年経って」とあるので2010年頃、『城の中の城』の30年後ということになる。
前作『城の中の城』を発展させた主題と次作『交歓』につながるギミックが登場するが、タイトル通り宴席での会話に趣の重点がある。人間関係としては相変わらず兄妹、夫婦が入り乱れての混戦模様である。
『城の中の城』で桂子はギリシア神話への共感を語っているが、宮沢明はギリシア古典専攻の教授である。相変わらず中国古典は頻繁に出てくるが、山田信・桂子が専攻していた英国文学はもはや登場しない。
音楽への傾倒は相変わらず色濃く、冨田勲的なシンセによる演奏も登場する。

2010年の日本は『城の中の城』で「マルクス教」「キリスト教」と並べて批判された宗教のそれぞれを代表する国家であるソ連とアメリカの衝突の舞台となっている。日本発祥の信仰である「反核平和教」のせいでなすすべもないが、入江が首相時代に開発した超兵器により辛うじてソ連の北部侵略を押し留めている。
人々は海辺の観光地へ「疎開」している。物語の最終盤では「東京にごく近いところで最大級の地震が発生し、関東大震災を上回る被害」が起きる。2010年8月の出来事である。

桂子は出版社の社長として元首相である入江の回顧録を手掛けるが、関係としては事実上の夫婦となっている。三人の子供のうち智子と貴はそれぞれ子をなすが、末子の優子は田舎の酒屋に後妻として嫁ぎ子がなく、夫の死後は先妻の三人の子と暮らしている。
優子の家は、聡子の小説の舞台として登場する。小説内で聡子は「まり子」となっているが、その由来が桂子が波長が合わないと感じていた耕一の最初の妻、まり子から付けているのも、桂子が優子の結婚に反対していたことと重ねてみると面白い。

舞台は海辺の観光地と田舎の小都市を行き来するが、あくまで都会からの旅行者の視点を失わない。
本書は福武書店からの刊行だが、文庫は新潮社から出たらしい。小学館のP+Dブックスシリーズでの復刻はされていないが、4部作では最も面白いと感じた。舞と慧の作品に近くわずかに幻想的な雰囲気があるからだろうか。



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