メタラブコメの出現とメタフィクションの系譜~『現実でラブコメできないとだれが決めた?』感想・序 [読書]

メタフィクションは「現実自体の虚構性を暴き立てる絶好の手段」であり、「文学的自己言及装置」を擁する(『メタフィクションの思想』巽孝之,筑摩書房,2001)。

同書の目次には、トマス・ピンチョン、筒井康隆、ルーディ・ラッカー、沼正三、スティーブ・エリクソンらの名前が並ぶ。ボルヘス、デリーロら南米文学のマジックリアリスムは世界的文学賞を席巻し、P.K.ディック、スピンラッドにも改変歴史を扱ったメタSFがある。

日本の推理小説界においてはメタミステリまたはアンチミステリというサブジャンルがある。三大奇書、または黒い水脈と呼ばれる作品群(『ドグラ・マグラ』(夢野久作,松柏館,1935)、『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎,新潮社,1935)、『虚無への供物』(塔晶夫,講談社,1964/中井英夫,三一書房,1969))はメタ的な自己言及的装置を有している。

推理小説のこの系譜からは、『匣の中の失楽』(竹本健治,幻影城,1978)、『ウロボロスの偽書』(竹本健治,講談社,1991)、『夏と冬の奏鳴曲』(麻耶雄嵩,講談社,1993)、『蝶たちの迷宮』(篠田秀幸,講談社,1994)、『コミケ殺人事件』(小森健太朗,出版芸術社,1994)、『天啓の宴』(笠井潔,双葉社,1996)、『匣の中』(乾くるみ,講談社,1998)等の作品が生み出された(※例示は拙者の独断)。

さて、ラノベ界は空前のラブコメブームだという。
特に小学館が発行するレーベル「ガガガ文庫」は、『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(渡航,小学館,2011-)の大ヒット以降、『弱キャラ友崎くん』(屋久ユウキ,小学館,2016-)、『千歳くんはラムネ瓶のなか』(裕夢,小学館,2019-)と名作ラブコメを連発し、ラノベラブコメ界の総本山と言える存在だ。

そして、このガガガ文庫からラブコメの極北、メタラブコメとして誕生したのがこのほど完結した『現実でラブコメできないとだれが決めた? 』(初鹿野創,小学館,2020-2022)なのである!

(続きます)



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